〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉
フランチェスカ・デゴ 無伴奏ヴァイオリンリサイタル
特別インタビュー

フランチェスカ・デゴ 写真
© David Cerati

 パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで入賞し、世界から注目を集めているフランチェスカ・デゴが、2026年1月、初めてKitaraに登場します。今回のリサイタルに向けた思いやプログラムのテーマ、それぞれの作品の魅力を深く語っていただきました。
 (KitaraNEWS12-1月号には抜粋版を掲載しております。)

――初めての北海道でしょうか?楽しみにしていることはありますか。

 札幌を訪れるのも演奏するのも初めてで、とても楽しみにしています。街や名高いコンサートホールの魅力に触れ、そこで聴衆の皆様にお会いできるのを待ちきれません。北海道のこと、特に冬の美しさについてたくさん耳にしてきましたので、きっと今回のコンサートに最高のインスピレーションを与えてくれると思います。日本におけるクラシック音楽への知識や愛情は、いつも私の舞台上でのインスピレーションとなり、忘れられない体験を生む完璧な雰囲気を作り出してくれます。私はコンサートにおける観客と演奏者は川の両岸のようなものだと思います。水(=音楽)の流れの方向を一緒に形作り、そのさざ波や波を互いに影響し合いながら生み出していくのです。どちらか一方が欠けてもコンサートは成り立ちません。

フランチェスカ・デゴ 写真2
© David Cerati

――プログラムの聴きどころはどんなところですか?

 このプログラムは、私が演奏できることを何より望んでいた、最も私らしい音楽の組み合わせです。
 一方では、J.S.バッハ、私がこれまでに多く録音してきたパガニーニ、イザイといったヴァイオリン・レパートリーの定番に加えて、初期イタリアの珠玉の作品たち、もう一方には、私のプロジェクト《Feathers in time(時の羽)》を組みました。これは、現代イタリアを代表する作曲家たちに、2020年に亡くなった私の父であり著名な詩人ジュリアーノ・デゴの詩に触発された音楽を書いてもらう、という試みです。
 今回のコンサートでは、カルロ・ボッカドーロ、ニコラ・カンポグランデ、フランチェスコ・アントニオーニというイタリアを代表する現代作曲家3人の作品を演奏します。彼らの音楽の言語やスタイルはまったく異なりますが、同じ1人の詩人の作品からインスピレーションを得ているという点が、さらに面白さを増しています。
 札幌で世界初演となるボッカドーロの作品は《仮想(Virtualバーチャル)》という詩に基づいていて、芸術とデジタル時代の複雑な関係を探っています。彼はこのテーマを、非常に高く、非常に柔らかく(ほとんど聞こえないほどの)音楽で表現しました。聴きながら、それが現実のものなのか、それとも“バーチャル”なのか、と思わされるでしょう。
 カンポグランデの作品は非常に技巧的で、父の詩《The poet(詩人)》に触発されています。そこでは創作をする者が、感情を表現することと、技術や音節(音楽の場合は音符)の制約との間で常に格闘している姿が描かれています。これも世界初演です
 アントニオーニの作品は日本初演で、《ジュリアの瞳》という詩に着想を得ています。これはByron(バイロン卿)に捧げられた詩で、父が彼の大作《ドン・ジュアン》をイタリア語に訳した時の八行詩と脚韻の形式を思い起こさせます。その中で詩人は人生や悲劇、人間性について思索を巡らせ、最後にはジュリアの瞳の思いに迷い込んでいくのです。興味深いことに、アントニオーニの娘の名前もジュリアで、それもまた彼がこの詩に惹かれた理由のひとつです。アントニオーニは声も使って(私も数音だけ歌います)瞑想の過程を描き出しています。

フランチェスカ・デゴ 写真3
© David Cerati

――無伴奏での演奏に対して、何か特別な思いがあれば教えてください。

 無伴奏での演奏は大好きですが、弦楽器にとってこれほど難しいものはありません。ピアノのように和声が“内蔵”されているわけではないので、レパートリーははるかに複雑で、楽器と奏者の能力を極限まで試すことになります。
 もちろん今回のプログラムには、その代表例ともいえる二つの作品が含まれています。ひとつはバッハの《パルティータ第2番》から《シャコンヌ》。歴史上最も驚異的な傑作の一つであり、ヴァイオリン・レパートリーの頂点といえる音楽です。そしてパガニーニの《カプリース》、これは私が今でもヴァイオリンのために書かれた作品の中で最も高度な技術を要求するものだと考えています。幼少期から親しみ、22歳のときに全曲を録音するまで私の人生に寄り添ってきた、個人的にも特別な作品です。
 ソロ・リサイタルを行うことには、さらにもう一つの大きな挑戦があります。それは演奏者が完全に自由であるということです。テンポや表現、そして聴衆との対話を誰にも左右されずに探求できる――それはコンサートの場で可能な最も直接的で親密な対話だと思います。

フランチェスカ・デゴ 写真4
© David Cerati

――札幌のお客様へメッセージをお願いします。

 札幌の皆様へ。ヴァイオリンの中世から現代に至るまで無限の可能性を祝うこの舞台にお越しくださり、心より感謝申し上げます。初来日から10年、こうして初めて札幌で演奏ができるというのは私にとって本当に大きな喜びです。
 今回のプログラムは、私がこれまで演奏してきた中でも最も難しく、多彩で、そして野心的なもののひとつであり、それを皆様と分かち合えることに胸が高鳴っています。プログラムの中で最も古い作品は700年前に書かれたもので、最も新しい作品はほんの数か月前に完成したばかりです。前半では、器楽音楽が記録され始めてからのあらゆる世紀におけるイタリア音楽を創造的に探っていきます。そして後半には、西洋音楽の伝統の父であるバッハ、そして彼に直接オマージュを捧げるイザイの作品を演奏します。
 すでにご存知でお好きな作品を楽しんでいただくとともに、新しい宝物のような作品を発見していただければ幸いです。
 美しい札幌の街に私を迎えてくださり、ありがとうございます。

Profile

フランチェスカ・デゴ Francesca Dego

© David Cerati

イタリア系アメリカ人のヴァイオリニスト、フランチェスカ・デゴは、その多才さと説得力のある解釈、そして完璧なテクニックで称賛されている。
これまでに、ロンドン交響楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団、スウェーデン放送交響楽団、バーミンガム市交響楽団、ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団、ダラス交響楽団、NHK交響楽団等のオーケストラと、サー・ロジャー・ノリントン、ファビオ・ルイージ、フィリップ・ヘレヴェッヘ、ダニエレ・ルスティオーニ等の指揮者と共演している。
シャンドス・レコードと専属契約を結んでおり、最近の録音は『ブラームス&ブゾーニ:ヴァイオリン協奏曲集』(ダリア・スタセフスカ指揮BBC交響楽団)、『モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全集』(サー・ロジャー・ノリントン指揮ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管)などがある。
現在、ロンドンを拠点に演奏活動を行っている。使用楽器は、フランチェスコ・ルジェッリ(1697年製)。