大阪フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者、ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー名誉指揮者。桐朋学園で齋藤 秀雄に師事。1978年、小澤 征爾の招きでタングルウッド音楽センターに学び、同年ニューイングランド音楽院指揮科に入学。タングルウッド音楽祭でレナード・バーンスタインと出会い、以後助手を務めた。これまでにバッファロー・フィル準指揮者、エリー・フィル音楽監督、ミネソタ管音楽監督、ハノーファー北ドイツ放送フィル首席指揮者、バルセロナ響音楽監督、大阪フィル音楽監督を務め、2000年よりハノーファー音楽大学の終身正教授。05年『トリスタンとイゾルデ』を日本人指揮者として初めてバイロイト音楽祭で指揮。06年から、市民が気軽にクラシックを楽しめる「大阪クラシック」をプロデュース。09年、ニーダーザクセン州功労勲章・一等功労十字章受章など受賞歴多数。


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本格的なオーケストラ演奏を小学生から楽しめると、毎年ご好評をいただいている「きがるにオーケストラ」。昨年に引き続き、今年も情熱のマエストロ、大植 英次を迎えて多彩なプログラムでお届けします。コンサートにかける熱い想い、聴きどころなどを伺いました。

―「キタラあ・ら・かると」には四度目、そして昨年に続いての出演となりますね。

大植 キタラの音楽祭に四度も呼んでいただけるなんて、とても光栄です。北海道には、訪れるたびに「なんて素晴らしいところだろう」という思いが強くなります。大きな自然、温かな人々、豊かな食の幸……。私は広島出身ですが、今や北海道が第二の故郷になってしまいました。

―昨年は、映画音楽と、その創作のヒントやモチーフとなったクラシック曲が演奏されました。今年は、どんなテーマで選曲をされましたか。

大植 私の北海道への思いと、キタラへコンサートを聴きにきてくださる方々へのメッセージを込めました。選曲のねらいは、当日まで胸に隠しておきたかったのですが(笑)、お話ししましょう。
オープニングはリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」の導入部です。映画『2001年宇宙の旅』のメインタイトルなどで使われた曲というと、ピンとくる方も多いのでは? 冒頭、トランペットが吹く「自然のテーマ」に続きティンパニがダン・ダン・ダン・ダン……と力強く響くと、わくわくします。宇宙の壮大さを感じてください。地球も、そして北海道もその一部だと。
次は伊福部 昭「ゴジラのテーマ」。なぜゴジラかというと、大きいから。北海道は大きな島です。そのスケール感を音楽で伝えたくてこの曲を選びました。

―さらに前半は「美しく青きドナウ」、組曲「火の鳥 (1919年版)」と続きます。

大植 札幌の歴史を調べて、この曲順になりました。札幌の語源はアイヌ語で「乾いた大きな川」を意味する「サッ・ポロ・ペツ」だそうですね。「大きな」はすでに二曲目のゴジラで表現しました。最後は「川」です。なぜ次に「美しく青きドナウ」がくるか、もうおわかりでしょう。

―さらにストラヴィンスキーの組曲「火の鳥(1919年版)」が続くのはなぜですか。

大植 1919年版という点が重要です。札幌はラーメンが美味しい街としても有名です。ご当地ラーメンとして、今や日本だけでなく世界にも知られるようになった札幌味噌ラーメンの創始者が1919年生まれなんです。

―コンサート後半はジョン・ウィリアムズが同名映画のために作曲した「シンドラーのリスト」より メイン・テーマ、レナード・バーンスタインの組曲「キャンディード」と続き、最後はレスピーギの「ローマの松」から”アッピア街道の松“ですね。こちらも北海道と何か関わりが?

大植 「シンドラーのリスト」は私の友人でもあるジョン・ウィリアムズの代表作のひとつ。哀切なメロディは、一度聴いたら忘れられません。映画も感動的でした。第二次世界大戦中に、およそ1,200人ものポーランド系ユダヤ人をホロコーストから救ったドイツ人実業家オスカー・シンドラーの実話をもとに作られた作品です。戦争の悲惨さ、人種や宗教を越えて人を思いやることの大切さを、優れた映像と音楽で深く感じさせてくれます。そのようなことを改めてご家族で考える機会になればと思い、選んだ曲です。
組曲「キャンディード」はヴォルテールの「カンディード、あるいは楽天主義説」を原作とした舞台作品のために作られた音楽です。原作の複雑なあらすじを端的に説明しますと、ドイツの片田舎で暮らしていた楽天家の主人公が城を追い出され、各国を放浪します。行く先々で様々な苦難を経験した末、故郷のよさ、そこで暮らす幸せに目覚め、生まれ育った土地へ帰るというストーリー。北海道を故郷にもつ幸せを、この曲から感じていただければと思います。
最後は「ローマの松」から”アッピア街道の松“です。北海道には松前藩がありました。(ほっ)かいどうのまつ(まえはん)……街道の松……アッピア街道の松、という連想からこの選曲となりました。作曲家のレスピーギは「私は『ローマの松』で、記憶と幻想を呼び起こすために出発点として自然を用いた」と言っています。ローマの松と種類は違いますが、北海道にも松がたくさん自生していますね。金管楽器のファンファーレで勇壮に閉じる曲とともに、この日のコンサートがみなさまの記憶に鮮やかに残りますように。

―大植さんのお好きな言葉は「心音(しんおん)」だそうですね。その意味をおしえてください。

大植 耳も目も不自由だったヘレン・ケラーがモーツァルトの音楽に接したとき、「素晴らしい音楽は、心に直接訴える」と言ったそうです。それを知ってから「心音」をモットーにするようになりました。お客さまと演奏家、スタッフの心が音楽をとおして一つになれるよう願って、いつも演奏しています。

―今年も「きがるにオーケストラ」を楽しみにしていらっしゃるみなさまにメッセージをお願いします。

大植 札幌や北海道の歴史や魅力に思いをはせながら選曲すると、とても楽しく素敵なプログラムができました。私自身もわくわくしています。コンサートを聴いて「自分たちの故郷は、こんなに楽しくて素敵なんだ」と感じていただければ幸いです。